2024年05月01日
先月、医学科を卒業した渡部恵理香さん(医学部6年生(当時))が、分子生理学講座(藤原祐一郎教授(当時):現客員教授)の研究室において新しいVoltage-clamp fluorometry法を駆使して、グルコーストランスポーターと単糖の結合親和性を解析することに成功しました。
食餌中のでんぷんは消化され単糖となり、小腸の吸収上皮細胞を経て血液中に吸収されます。吸収上皮細胞の細胞膜で単糖を輸送するタンパク質がグルコーストランスポーターです。グルコーストランスポーターは必要な糖のみを取捨選択し輸送しますが、その仕組みの全容は明らかになっていません。今回、腸管内腔側の細胞膜ではたらくグルコーストランスポーターSGLT1の糖選択性を解析しました。Voltage-clamp fluorometry法を応用し、トランスポーター分子に蛍光物質を付加し、糖が結合・輸送される際の構造変化に伴って蛍光強度が変化する特性を利用して単糖の結合を解析しました。種々の糖の結合を解析することに成功しました。通常グルコースとガラクトースしか輸送しないSGLT1にフルクトースなどの他の輸送されない糖も結合しうることを見出しました。
本研究は、従来のアイソトープを標識した糖を用いることなく幅広く多くの糖に対して解析できる利点があります。また、グルコーストランスポータータンパク質を単離精製することなく生きた細胞膜上で機能するトランスポーターに対して解析できる利点もあります。今後さらに研究を発展させ、本解析手法を他のトランスポーターに適用することで、より多くの細胞膜にかかわる生命現象や病気発症のメカニズムの解明や糖尿病治療薬創薬への発展が期待されます。
この研究成果は、渡部さんが筆頭著者となる論文として、Journal of Biological Chemistry誌に先ごろ公開されました。
論文情報
Watabe E, Kawanabe A, Kamitori K, Ichihara S, Fujiwara Y.
“Sugar binding of sodium-glucose cotransporters analyzed by voltage-clamp fluorometry”
J. Biol. Chem., 2024 Mar 24;300(5):107215
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)01710-1/fulltext