2024年09月06日
医学部医学科5年生の森下陽香さんが、組織細胞生物学講座(荒木伸一教授)の研究室において、先端に多層ヒダを持つ特殊なラメリポディア(葉状仮足)を伸展させる新しい細胞移動様式の存在をライブセルイメージングと光—電子相関顕微鏡観察(CLEM)で明らかにしました。
ラメリポディア伸展による細胞移動は、胎児発生、創傷治癒、炎症、がん浸潤などさまざまな生命現象において非常に重要です。アクチン結合タンパク質の一つであるアクチニン4(ACTN4)の発現量は、がんの悪性度と相関性があることから、がんバイオマーカーとしての有用性が見込まれています。しかし、ACTN4と細胞移動の関連性は解明されていません。
従来、ラメリポディアは平坦な細胞突起と定義されていましたが、本研究では、その先端にACTN4を豊富に含む多層ヒダを持つ特殊なラメリポディアの存在を見出し、「multilayered ruffle-edge lamellipodia」と命名しました。この新規タイプのラメリポディアは、通常の平坦なラメリポディアより運動能が高く、ACTN4のノックダウンにより先端ヒダ形成と細胞移動が抑制されることがわかりました。また、ACTN4は細胞膜イノシトールリン脂質であるPIP3との結合能を有しており、PI3K阻害剤でPIP3産生を抑制するとラメリポディア先端のACTN4局在が消失するとともにヒダ構造もなくなることから、PI3K活性がこの構造形成の重要な因子であることが示されました。このヒダ状になった細胞膜にはマトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)が局在することから、ラメリポディア先端で細胞外マトリックスのコラーゲンを分解しながら細胞間質を移動するのに合理的な構造と考えられます。
この新規タイプのラメリポディアは、ヒト肺がんA549細胞などの特に浸潤能が高いがん細胞株でよく見られることから、がん浸潤・転移メカニズムの解明、さらに浸潤・転移をターゲットとした新しいがん治療法の開発につながることが期待されます。なお、本研究成果は、日本医科大学の本田一文教授との共同研究によるものです。
森下陽香さんは、2年生の時から組織細胞生物学講座の荒木伸一教授の指導のもとで研究を継続的に行い、今回その研究成果を筆頭著者として英文論文にまとめたものが、Elsevier出版の生命科学雑誌 Experimental Cell Research, Volume 442, Issue 2, October 2024,114232 (オンライン版 2024年9月1日)に受理掲載されました。
論文情報
Live-cell imaging and CLEM reveal the existence of ACTN4-dependent ruffle-edge lamellipodia acting as a novel mode of cell migration
Haruka Morishita, Katsuhisa Kawai, Youhei Egami, Kazufumi Honda, Nobukazu Araki (責任著者)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014482724003239?dgcid=author
Open Access Preprint版 13011556 (biorxiv.org) Live-cell imaging and CLEM reveal the existence of ACTN4-dependent ruffle-edge lamellipodia acting as a novel mode of cell migration | bioRxiv